報告者:田和淳一氏(社団法人日本損害保険協会業務企画部安全技術グループリーダー)
田和氏は、まず、調査の目的を、損害保険業界が持つデータを利用して、交通安全対策に貢献する方策の一環であると説明。損害保険金の支払いデータは、事故の金銭的損害を把握する唯一の統計であるとした。
自動車保険データの特徴として、人身事故の経済的損失を把握が可能、治療期間や受傷部位などの把握が可能、さらに物的損失も把握が可能であることを指摘した。
調査の方法は、損害保険会社が、支払った保険金のデータを利用している。保険会社以外の共済なども、推計している。
警察統計と違う点として、警察統計は事故発生時を基準としているが、損保統計は保険金支払いの時点を基準とする統計である。そのため、示談交渉が長引く場合、事故発生から時間的に経過している可能性があるとしたが、統計の母数が多いため、統計上、大きな差異は現れないとした。
交通事故の発生要因として、人、車、道路環境があると指摘し、それぞれの多様性から交通事故が発生すると解説した。しかしながら、この研究では、ミクロレベルの分析はせず、マクロレベルの分析を行った。
交通事故による年間損失額は、2001年度で、3兆4,403億円に上る。このうち、人身損失が47.3%、物的損失が52.7%だった。この損失額は、直接的な損害額であり、過失相殺などにより、実際に支払われた保険金額よりも、多くなっている。また交通事故により発生した渋滞による損失など、間接損害については、調査の対象となっていない。間接損害については、今後の研究課題であると述べた。
問題となっている高齢者事故に関して、高齢者が加害者となる事故が、全体の事故の増加数よりも、高率で伸びていると指摘した。
人身事故の概要は、被害者数として約134万人、人身損害額は1兆6,273億円で、死亡後遺障害による賠償額が大きくなっている。
物損事故は、自動車や建物の数は、701万件。1事故により複数の物件が壊れるため、事故件数よりも多くなっている。
加害者は、20代が多く、50代の後半が次に多い。定年間際にも山があることを強調した。被害者は、20代が多い。その要因は、まだはっきりとはしていないが、事故形態として、歩行者をはねる事故が少ないが、同乗者が複数いる単独事故が多いことが、要因として考えられると指摘した。
高齢者の人身損害額が多いのは、加齢により快復が難しいためだと考えられている。
受傷部位としては、骨で守られていない腹部の受傷が損害額が大きくなっている。後遺障害では、頭部顔部と、下肢が多い。
事故類型による分析では、金額では、人対車の事故が多い。件数では、追突事故が多い。
車両の用途では、営業用に、損害額が大きい。これは、乗客も乗っているためである。
加害者としては、29歳以下の若者が多いが、高齢者の事故が増えつつある現状である。
被害者も、若年層が多い。
最後に、社会経済的損失の抑制の観点からも、防止軽減対策が重要であるとした。さらに、費用対効果の高い施策が求められており、統計の分析結果を有効に活用することが必要であると締めくくった。 |