日時:2004年4月23日金曜日 13時から
場所:経団連会館・国際会議場(東京都千代田区)
障害者の交通安全を守るために、道路交通、乗り物交通のバリアフリー化、交通バリア教育、交通サバイバル教育、障害支援機器の開発の4点に分類し、研究を行った。(1) 学校教科書の調査、(2) 学校教師の安全教育経験の調査、(3) 小学校、中学校での実践例分析、(4) 教習所、企業での教育実態のヒアリング調査、(5) 小学生、中学生、一般・プロドライバーの認識調査を行った。
社会科の教科書には、共生を意識している記述が目立ったが、その他の学科では、誤った記述や、間違った誘導をしかねない記述、写真があった。
交通バリア教育の経験があった教師は、小学校で72%、中学校は65%だった。交通バリアフリー教育の課題は、教育者が正しい知識を身につけ、対象者に合わせた内容で行う必要がある。適切なシュミレーション体験を行い、障害者の講話を適正に行う必要がある。
教習所で使う教本類には、身体障害者用駐車場や「歩道」への乗り上げ駐車に関する適切な情報を掲載するよう、指摘した。またドライバーは、歩道も車いす利用者には走りづらいので、車道に出てくる危険性を認識すべきと述べた。
高齢者の特性を観察し、その問題点を探った。高齢者の講習を担当する指導員に対する質問紙調査も行った。
研究成果として、「一時停止・左右確認」、「ハザード知覚(危険予測)」について、教育をするべきとの結論に達した。教習を行ったグループと行わなかったグループに対して、再度、効果測定を行った。
総確認回数など、教育効果が認められたが、教育効果の持続性が課題として浮かび上がった。
コミュニティゾーンや「あんしん歩行エリア」、「くらしのみちゾーン」など、交通施策の充実と住民参加型アプローチが進展している。課題としては、コミュニティーとの関係と役割の明確化がある。
「100%の同意」が、施策推進の壁となっている。地域発意型の施策推進を考える。地区交通改善を事例として検討する。事例は東京都台東区の谷中である。地区道路に通過交通が侵入している。7割が通過交通となっている。
地域住民と問題意識を共有化し、住民側からの要請で研究グループが参加している。住民全体で認識を共有するため、住民参加型の調査を行った。スピードガンを用いたスピード調査やナンバープレート調査などである。「押し掛け型」の説明会も開催し、ワークショップを持つまでに至った。
サイレント・マジョリティとどう関係するのかが、研究課題となった。谷中では、地元団体が、行政に要望を伝える仕組みが存在している。地元組織との連携を重視した交通改善計画立案プロセスの提案をする。地域活動に熱心な団体、住民の意向を重視する。
一方通行の変更など、シュミレーションを行い、所要時間の試算をし、住民の判断材料を提供した。
サイレント・マジョリティーに関する新たな知見は特に得られなかった。アンケートの回収率を上げなくとも、全体の傾向を把握できるのではないか、という仮説が生まれた。
「安全」という言葉は日常的であるが、その概念については曖昧である。人類は、自然からの脅威を回避する消極的な「安全」概念があった。利便性の向上に伴う危険からの回避という課題が生まれた。時代とともに、概念は変化している。「安全」という概念が、各分野で一人歩きしている。「安全」概念の再構築を行う。
概念の共有化のため、「不確実性を回避する」という観点から、法律、人間活動の側面から整理した。法律では「安全」という概念を定義していない。歴史的に考察する。デューイ『確実性の探究』では、宗教、道徳、思想での安全の追求から始まった。次に、科学技術による物理的な安全を求めた。さらに保険や社会制度など危険を分散させる仕組みを作った。科学的情報処理技術では、現時点では不確実性をなくすことはできない。
安心と安全。予測不可能なことが、未然に防げなくても、克服が可能な状態が安心である。予測可能なことを防ぐのが、安全である。予測可能な領域を増やすことが安全の拡充になる。
道路交通の安全問題では、交通システム全体の運行の円滑化と、システムを構成するこの安全性・利便性の追求が必要。交通環境のすべてを把握はできない。変化を予測することはできない。知覚から制御まで、時間がかかる。最終的な責任は人間にある。
交通安全対策は、予測不可能性を減少させ、個人間の認識の差異をなくし、同じ予測をするようにする。その方法論が、Incident & Accident reportを作り、情報を共有化する。交通教育を行い、状況に対するコンテクストを共有化する。
「安全」に対する個人差が問題である。今までの交通教育や政策は、理性や知識を中心に行ってきた。安全を合理的に捉えてきた。問題は、他者への感性が求められるのではないか。
学会賞は、業績部門が福島県小高町の「おだかe-まちタクシー」と、東急バスの「大都市におけるバスサービスと経営の改善」だった。
「おだかe-まちタクシー」は、バス路線の撤退のため、高齢者の外出機会が減少した。小高町は商工会と協力し、iモード、GPSなどのIT技術を利用しオンディマンドタクシーを実現した。郊外から市街地まで、タクシーで2,700円前後かかるのに対して、e-まちタクシーは片道300円に抑えた。
このシステムは「住民・利用者」、「行政」、「タクシー事業者」の「三方一両得」を目指して設計された。住民・利用者は家族の送迎に頼らず、安い料金で利用でき、乗り合いのため、交友範囲の拡大につながる。行政は、福祉バス導入の40%の費用で交通が確保されている。タクシー事業者は参入前後で収入は変わらないが、バス運行受託により、収入が固定的になった。利用者が、市街地を回遊することにより、商店で買い物需要が発生している。
詳細は、小高町e-まちタクシーのホームページへ。
東急バスは、子会社東急トランセによる代官山地区での100円バス運行や渋谷区コミュニティーバス、そして深夜急行バスの運行など新規事業が目立つとともに、大都市圏でのバス事業の市場変化に対する経営改善も評価された。
100円運賃、小型バスの導入、狭い道路と住宅地での路線展開を特徴とする東急トランセを初め、羽田空港アクセスバス、深夜バスの運行などで、市場を拡大させると同時に、子会社への路線移管、女性ドライバーの積極的な活用など、経営の抜本的な改善により、収益構造を強固にし費用の低減をはかっている。
詳細は、東急バス株式会社のホームページへ。
著作部門は、『道 I・II』で、道路文化研究所理事長の武部健一氏が受賞した。
本書は、道路に関する技術、政策、文化を、先史時代から現在まで、通史的に研究を行った。
武部氏は、『道のはなし I・II』で第14回学会賞著作部門を受賞し、著作部門で初めての2回目の受賞となる。
(2004/04/23)