まず、近森 順 芝浦工業大学工学部教授から、全般的な報告がなされた。このシンポジウムが開催されるようになって、3年目である。広く意見を聞く機会が設けられるのは、意義深いことである、という。
岩貞るみこさんは、自動車の安全技術の進歩は目覚ましいものがあったことを強調した。死者数の低減だけでなく、むち打ち症の軽減なども必要だと昨年発言したが、日産自動車の取り組みなど、勇気づけられた。
自動車の安全の向上ではなく、運転者の安全の意識の向上が必要なのではないか、という疑問が呈された。また、これまでの安全対策は運転者が中心だったが、これからは、助手席や後部座席の乗員の安全にも目を向けるべきだとした。
特に、子供の安全性の向上、チャイルドシートの安全性の向上が不可欠である。しかし、ベスト型チャイルドシート、横向きのチャイルドシートの安全性に疑問がある。現在のチャイルドシートメーカーは、ベビー用品メーカーで、企業規模の面から安全性に疑問がある。ユーザーからは、チャイルドシートの使用方法が難しい問題に、自動車メーカーはISO
FIXの採用などで責任を負うべきであるとした。
さらに、高齢者の安全性を考慮に入れた、衝突安全試験が必要である。また、前席だけではなく、後部座席にもダミーを乗せた衝突実験が必要ではないだろうか。
歩行者保護については、自動車アセスメントの対象になることを評価した。
追突事故の増加は、カーナビや携帯電話の普及が原因であるといい、その対策に自動ブレーキの普及が必要であるという。
吉本堅一 東京大学名誉教授は、交通事故件数が増えて、負傷者が増えていることは、「天の邪鬼」として、良いのではないだろうか、という発言からはじめた。自動車等1万台あたりの事故率の推移は、減少傾向にある。ただし、負傷者は、1990年代半ばから増加傾向にある。これは、ちょっとした事故でも病院に行き、治療を受ける傾向があることが、軽傷事故が増え、傷害のレベルが下がっていることが、その原因だと考えられる。傷害の程度や部位のデータを整備して、対策をとる必要がある。
自動車の安全性を向上させる努力や方向性は、間違っていないといえよう。
今後取り組むべき課題として、ASV技術の普及のための評価方法の確立や、歩行者・自転車と自動車の分離をするコミュニティー・ゾーンとISAの形成、高齢者対策として、普通自動車運転免許の厳格な審査や、高齢者用のコミュニティー・カーの開発が提言された。
内山田竹志 社団法人日本自動車工業会安全・環境技術委員会副委員長は、安全は、人、車、環境の三者で作るものと、紹介した。事故発生後の衝突安全における車両の役割の大きさから、自動車メーカーは、衝突安全の向上に努めて来た。前席から後部座席への展開、成人から高齢者や年少者への対象の拡大が課題である。
衝突安全の柱として、コンパティビリティと歩行者保護を紹介した。さらにシートベルト非着用者が多いことを紹介し、シートベルト着用率を向上させるために、警告等の装備があるが、社会から受け入れられる必要がある。罰則や保険金、刑事責任など、社会で行える施策も多い。
予防安全システムとして、ブレーキアシストを紹介。大半の事故でドライバーはブレーキを最大限活用していないことを指摘した。スタビリティコントロールの効果として、中破以上の事故が三分の一から四分の一に低減している。運転に対する自動車の介入については、社会のコンセンサスが必要であることを提言した。
下平 隆 独立行政法人交通安全環境研究所理事長は、総合的対策の必要性を強調した。総合対策として、行政における省庁間の連携が取り上げられるが、産業界や学会でも、同様の連携が必要である。TDMも安全面での貢献もあると評価した。
交通安全への国民的関心を高める必要を指摘した。特に学校教育での交通安全教育や参加体験型の交通安全教育の重要性を強調した。交通安全教育を推進力にして、車両の安全が向上することが期待される。
政策評価が義務づけられたが、その評価方法の開発も必要である。
高齢者ドライバーが増加することを考慮して、予防安全として、ASVの深化、普及が望まれる。また個別対策として、トラックを取り上げ、被害の大きさから、予防技術の普及を必要性を強調した。そしてトラック事業者は、事故の経営への影響を考慮し、予防安全への取り組みをするように求めた。
コンパティビリティの推進を取り上げ、軽自動車とRVの増加により、道路環境が悪化していることを指摘し、コンパティビリティの重要性を指摘した。さらに、ユーザーが点検整備に対する姿勢を取り上げ、その責任を指摘した。
最後に環境とリサイクルとの調和の必要性を訴えて、発表を終えた。
討論に移り、司会から次の6項目のキーワードが提示された。
- 子供、女性、高齢者、歩行者、交通弱者
- ASVの普及
- 環境問題との調和
- 人、車、道、あるいは産官学の総合的対策
- 国民的関心の醸成
- 21世紀の交通体系の構築
これに対して、技術企画課長から行政の取り組みが網羅的に紹介された。
ASVについては、内山田氏から、技術的要因、コスト要因、メーカー間の競争、社会的な受容性の各要因を挙げ、ASVの普及について、楽観的な見方が紹介された。そして、スタビリティコントロールシステムについて、有望な技術だと発言した。運転者支援から運転制御への移行については、社会的な合意などの障壁がある可能性を指摘した。
下平氏からは燃料電池の安全基準の整備の重要性を指摘する意見が出された。環境問題に譲ることなく、交通安全対策を推進しなければならないことを強調した。
松本氏は、建設省と運輸省が国土交通省になったことによる効果については、透過鋪装を事例として紹介した。
内山田氏は、環境問題への意識の高まりが、子供から始まっている、自分の家庭の事例を紹介し、安全教育も、子供と女性を対象に推進することを提言した。
吉本氏は、自動車に頼らない交通体系の構築の必要性を指摘し、自動車産業に頼り過ぎない産業構造を作ることなどを発言した。
会場からは、ロールオーバーとコンパティビリティの問題について質問がなされ、松本氏が、近い将来に対策を考えていることを明らかにした。
シートベルト着用率の向上のために、乗員全員がシートベルトを着用しないと発進できない装置の導入を求める意見が出された。これに対して、内山田氏がアメリカでの事例を紹介し、社会から受容される必要性があることを指摘した。また飲酒運転の取り締まりが強化されたことを紹介し、罰則の強化を考えることも社会的に有効な手段だと指摘する意見が出された。
高齢者対策としての、車間距離装置の普及が必要との意見に対して、内山田氏は、現時点では、コスト面で普及を妨げていると発言した。
交通ルールを守らない人を、助ける必要がないという意見が出され、松本氏が、ルールを守らない人を守ることも、社会全体のコストを考えると必要であり、国としては、助けないという選択はできないと紹介した。
最後に近森氏からASVの計画的な開発と普及を推進することが重要で、人の場合は、教育、啓蒙、罰則などで、道については道路環境などで、三者一体的な総合対策が必要であるとの総括がなされた。
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