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Headlin News
セッション I(第1分科会)「交通安全のビジョンとターゲット」

司会 太田勝敏(東洋大学教授)

報告 クラウス・ティングヴァル(スウェーデン道路庁道路安全部長)
「安全な道路交通システムへのビジョン」

パネリスト 村上陽一郎(国際基督教大学大学院教授)
      加藤尚武(鳥取環境大学学長)

報告「安全な道路交通システムへのビジョン」

ティングヴァル氏は、 「手段としてのビジョン」という観点から講演を行った。

スウェーデンの道路輸送体系の品質を高めるために、安全性と質に責任を負っている。取締りを行う警察のような権限は持っていない。しかし全ての利害関係者とのつながりがある。 発言は議論のたたき台にしてもらいたい。 近代社会において、安全な道路体系を実現するには、昔とは違ったことをすることを議論したい。

ビジョンの有用性について、話しを始める。道路輸送体系というのは、複雑である。全ての国民が関係を持っており、様々な利害関係者がいて、いろいろな動機付けが存在する。体系の実現には長期間を有する、オープンなシステムである。

ビジョンの策定方法は単純ではない。多くの国民や関係者が、道路体系をどう変えていくか、議論をしなければならず、困難がある。ビジョンとは、行動計画ではなく、将来の望ましい状況である。まずは、ビジョンを明確化する必要がある。ビジョンを持つためには、問題意識を持ち整理する必要がある。

道路輸送体系は、不備なマンマシンインターフェイスである。こうしたシステムを改善をしなければならなく、専門家集団が社会に望まれるものを提供する責務がある。安全性は私たちの肩に掛かっていると言える。

今までと違った切り口を採用し、全ての人が、全ての命を守っていくという姿勢になる。医学のアプローチは、道路輸送体系とは違う。功利主義的なアプローチではない。

The Vision Zeroには、問題が存在している。Vison Zeroには、倫理的基礎、責任の分担、科学的アプローチ、変化への牽引力という側面がある。Vision Zeroでは、安全への責任は、専門家集団にあるといえる。もちろん、利用者の責任を軽減するものではなく、ルールの遵守は必要である。

法律的なルールではなく、倫理的、哲学的ルールが必要である。これは、法的なものではなく、政策的なものである。生命と健康は、道路輸送体系と引き替えではないということである。モビリティーと安全という観点が生じる。あらゆる手段を尽くして、人々の生命と健康を守らなければならない。Best Practiceを尽くさねばならない。

責任の連鎖という観点を考えると、これも政策的である。交通サービスの提供者には、最終的な安全に対する責任がある。道路使用者は、規則を守る必要がある。道路利用者が規則を守らなかったら、規則を改善する必要がある。

安全に係わる哲学がビジョンには必要である。我々は、失敗をする人間に依拠している。素晴らしいマンマシンインターフェイスがあっても、それを運用しているのは、ミスを犯す人間である。制約的な要因もある。生体力学的な制約である。

変化をもたらす推進力「ドライビングフォース」。ビジョンの対象を明確化する。社会の市民が、安全性を提供する対象者である。安全性への市民の要求は、正当なものである。民主主義が問題になっている。市民を参加させなければならない。

道路交通の品質を隠すのではなく、それを市民に対して説明する必要がある。あらゆる利害関係者が、その過程に参加させる必要がある。その一例にNCAP(新車アセスメントプログラム)がある。また、EURO-RAPという道路評価システムが導入される。スピード違反なども対象とする。

Vision Zeroは、効果なのだろうか。後で修正するとすると、費用は高くなる。正しいアプローチを最初から採用する必要がある。道路整備では、適切なガードレールを当初から設置していれば、安価に効果的なものを設置できた。これは、車両についても言えよう。

安全は、人々を制約するのか。それは、違う。危険性こそが、人々の自由を制約するのである。

現在、規制が盛んに行われているが、規制が常に最善の手段ではない。市民が我々に圧力を掛けることもある。市民のためにサービスを提供しなければならないのである。市民と専門家集団の責任分担が必要である。

パネルディスカッション

村上氏 Vision Zeroの背景にある倫理的基盤について、ティングヴァル氏の提示した4つの要素に加えて、「失敗への寛容」という観点が必要ではないか。日本では事故に関して、規制と教育、交通道徳に力点が置かれている。必ずしも、故意と無知だけが、その原因ではない。ヒューマンエラーもあり、それに対するに寛容が必要であろう。米国の医療の質に関する報告書がクリントン政権時代に出された。これに関心を持った。その表題は、「間違えることが人間である」という。

フランスやドイツでは、警察の他に、第三者委員会が事故調査を行っている。日本では、それは全くできない。警察は、刑事上、民事上の責任を決めるために、事故情報を集めている。失策したものは、何らかの罰を受けなければならないという姿勢である。では、航空事故では事故調査委員会が活動しているのだろうか。警察とは違った目的のために、事故情報を集める必要があるとの認識の上で、そのような制度ができあがったのである。調査をしている上で、小さな情報が、変革をしていく上での重要な経験になっているからである。それを交通事故に適用する必要がある。

ティングヴァル氏 明らかな規則違反と、ヒューマンエラーとの対比で、将来の交通安全政策が、何を根拠とすべきか、その前提条件を整備する必要がある。居眠り運転は違反なのか、飲酒運転は、どうなのか。 人間が犯しうるエラーを挙げていく必要がある。航空事故での事例のような、各アクターは多くの学ばなければならない。

加藤氏 ティングヴァル氏の講演を聴いて、ドライバーというのは、自己主義的であると感じた。鰯の群れは、何十万でも、交通事故を犯さないで泳ぐ。そのシステムは解明されていない。運転手は、以前は、情報を遮断されていた。ITSのようにリアルタイムの情報が運転者に提供される場合、あるいは、運転者が目的地などを発信することができるようになった場合、どのような変化があるのか、検討をする必要がある。アダム・スミスの「見えざる手」以下の状況で、運転をしている。全ての情報を手に入れた場合、それが最適な状況をもたらすか、検討する必要もある。これからは、情報をどのように提供したら安全が向上するのか、それを基準としなければならない。

ティングヴァル氏 交通輸送システムに関して、次のように考えることが大切だ。道路利用者を個人的なものとして考えるのではなく、複雑なものだと捉えている。問題は、個人に対して、生命と健康を提供していくのか、それには、情報は更に提供されるようになる。

太田氏 3つの論点を提供したい。ビジョンとターゲットを議論し、次に戦略を考えたい。ステークホルダーの中の、市民の役割を議論したい。ビジョンというのは、長期的な目標、将来に向かっての動機付けとなるもの、ターゲットとは、年次を区切って、具体的な数値として出てくるものが、ターゲットと理解している。方向性としては、イギリスもスウェーデンも同様であるが、ターゲットについて、ティングヴァル氏に説明を求めたい。

ティングヴァル氏 現実的には大きな違いはない。数値ターゲットも大きく違いはない。長期的には、マネジメント構造に違いが出るかもしれない。ターゲットがあればいいのではない。システムの構成要素を解明し、ターゲットを達成するために、なにをすればいいのか、検討しなければならない。部分部分に分割して、5から10程度の数字をターゲットとしておいている。シートベルト着用率を上げるためには、誰が主体となり行動すべきなのか。我々の経験では、利害関係者が一堂に会して、これから何をしなければならないのか、議論をし、役割分担を決めるというのは、困難な面がある。

太田氏 ターゲットは、行動変化を促すだけ、適切であるのか。

加藤氏 鳥取では交通量を減らしたい。それは、歩く距離が短くなり、健康に影響が出ている。そのような自動車の利用を含めてターゲットを設定する必要がある。

村上氏 死者数や負傷者数、負傷の度合いなどもターゲットとして適切である。ターゲットを達成するためには、あらゆる社会のインフラストラクチャーが関連する。救命救急センターの数やアクセシビリティなどである。一番大切なのは、いわゆる「縦割り行政」が、あらゆるインフラストラクチャーを動員して、ターゲットを達成する障害になっている。一例としては、チャイルドシートである。チャイルドシート自体は通産省の管轄、車の基準は運輸省であり、ぎくしゃくしたものがあった。このような事例は、にほんにいろいろある。防災ヘリを自動車事故にしたり、ドクターヘリを県境を越えて運用する問題である。これを指摘したい。

太田氏 日本が短期的には10年間で半減というターゲットを設けたのは評価する。死者というのは、全体のターゲットの象徴である。 分担する目標があったらいいのではないだろうか。

加藤氏 保険の関係では、交通事故を少なくした人に優遇を多くすべきであるという意見がある。飲酒運転の罰則強化も効果があった。あらゆる保険が、自己管理を徹底すれば優遇されるという制度になれば、自動車保険にも、いい影響があるだろう。

ティングヴァル氏 短期的な目標と長期的なビジョンが違うというのは、システムを作る時に出てくる。4つないし5つの要素を関連づける必要がある。利害関係者が協力しなければならないが、この経験が道路交通体系ではない。EURO-RAPは、それを解決するための試みである。初めて、インフラと車両、交通管理の関係者が一堂に会した、試みであり、第一歩である。

加藤氏 鳥取県は、一番人口が少ない。しかし人口あたりではワースト13である。この原因は、救急病院が人口比で設置されているためではないか。医療レベルは、地方でも問題ではない。道路の距離あたりで救急病院を設置する必要がある。これには、コストが膨大になる。それを解決するために、情報提供のあり方などを検討する必要がある。

ティングヴァル氏 ITSなどの安全な道路への一つの手段である。さらには速度制限を科し、監視カメラを使う。ここには、インテリジェントな速度規制が考えられ、シートベルト着用率の向上にも、インテリジェントな手法は使える。従来の手段に新しい手段を加える必要があるのである。また飲酒運転を考える。テクノロジーで飲酒運転をなくすことはできない、しかし何らかの手段を提供できる。

村上氏 私の提案は、既存の道路、道路付属物を見直す必要がある。これは事故情報を集めることから学ぶことの一つである。例えばガードレールの材質である。ガードレールの加害性を、いくつか知っている。ガードレールの材質や形状が、あらゆる地域で「given」となっているのには、疑問を持っている。事故情報に基づいて、何を改善しなければならないのか、分析することが必要である。

太田氏 新しい道路は、「道路監査」という動きがあり、市民が点検することが行われている。新しい技術だけでなく、既存の技術も見直す必要性を指摘された。スウェーデンで実施されているインテリジェントスピードアダプテーションを紹介して欲しい。また日本では、渋滞地周辺で事故が発生しているので、20km/hや30km/hといった低速度での適用について説明して欲しい。

ティングヴァル氏 インテリジェントスピードアダプテーションは、速度情報を提供するためではなく、制限速度以上に加速できないようにするシステムである。このシステムには、国民から抵抗があったが、今は受け入れられている。大多数の国民は、速度制限を守りたいと考えており、このシステムは有効であると考えている。大型トラック、バス、タクシーなどの輸送サービスに導入すれば、一般利用者の安心感にもつながる。 低速走行しなければならない場所で機能するのであれば、理想ではあるが、十分な適用はしていない。

太田氏 市民の役割について、コメントをして欲しい。

加藤氏 一般市民にこういう集会を開いても、効果がないことが多い。具体的な行動に出る必要がある。日本人は自動車に乗ることで個人主義者になっている。カーシェアリングには強い抵抗がある。税金や駐車場利用料など、具体的な措置が必要である。

村上氏 今の市民が、自己啓発をした上で、安全に取り組むか、ということに、楽観的ではない。社会の中に、あめとむちが組み込まれる必要がある。ただ、光があるかもしれないというのは、ネットの効用かもしれないが、同じような関心を持った人が、ネットでつながるという状況が生まれている。バーチャルなコミュニティーを通じて、意識変革をしていることが、一部にはできる可能性がある。他の領域、特に医療の領域では進んでいる。同じ病気を持つ人が、悩みを共有し、情報を発信している。バーチャルコミュニティーは、市民の側からだけではなく、行政から生まれてもいい。

ティングヴァル氏 道路輸送体系の品質を変えるには、リーダシップを発揮し、時間を掛けなければならない。たとえも国民が気に入らなくても、正当性を主張し続けなければならない。全ての利害関係者が良き道路利用者として行動する。まず、スウェーデンの道路庁関係者は、率先して実践している。行政の側が模範を示していくことが必要である。

太田氏 ターゲットを明確化する。利害関係者の目標を明確化する。交通体系全体を考慮する必要がある。ヒューマンエラーを安全の中に取り込む道路交通システムが求められ、専門家の役割は大きい。全体的な視点で見直す。新しい技術を導入する。市民の意欲をくみ上げる技術、仕組みが必要。以上のような意見が出たと総括する。

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