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Headlin News

セッション II 「交通参加者と交通安全教育」

司会 西山啓(広島大学名誉教授)

報告1 ハンス・ペタソン(スウェーデン道路交通研究所上級研究員)
「ヒューマンエラーと交通安全」

報告2 デイビッド・ライナム(イギリス交通研究所主任研究員)
「教育、取締り、制御−道路利用者の行動管理」

パネリスト
内山伊知郎(同志社大学助教授)
小川和久(広島国際大学助教授)

報告1「ヒューマンエラーと交通安全」

個々の利用者に焦点を当てる。道路利用者を理解することは、交通事情を改善する新しい手段を提供する。事故には、ヒューマンエラーが何らかの形で係わっている。

人間の適用能力を考えなければならない。道路利用者のマネジメントには、3つの手法がある。利用者の選別、教育、システムの人間への適合である。ただ問題もある。道路利用者の選択は、一般からは受け入れられない。近代社会において、乗用車を運転することはとても重要である。これは人権問題にもなる。

教育は、今まで過小評価されてきた。それは、実体的な効果を測定することが困難だったからである。教育手法も十分ではないからだ。しかし効果は大きい。運転教習と教育では、いくつかのポイントがわかってきた。

人間の能力にシステムを適合させる。まずは教育学的な手法が考えられる。もうひとつが、物理的な周囲の状況である。ロータリー式交差点は、道路環境を監視しやすい。立体式の交差点は一番安全だといわれている。スウェーデンの技術者は、モデルを提示している。3つの制御がある。知識、ルール、スキルである。知識ベースの制御は、時間がかかる。状況に慣れれば、少ない情報で行動できるようになる。自分の行動を規則をベースに行動することができる。実際の運転場面での運転行動で用いられる。運転教習に時間を掛けるべきであるという主張にもつながる。スウェーデンでは、親の同乗があれば16歳から運転ができるようになる。スキルベースでは、無意識のレベルの制御である。このモデルから考えられるのは、道路システムの標準化が必要だということである。

エラーのモデルは、自分しようとした行動ができなかった時が、エラーである。ある事故事例を考えよう。大型タンクローリーの事故である。不注意のミスは防げない。人間が柔軟であるが故に避けられない。このようなエラーは教育では防げない。この場合、受動安全が重要になる。もう一つ事故事例を紹介する。ルールを守っていても、二つの解釈が可能な状況がある。この場合、システムの設計が大切である。誤解の可能性を最低限にする必要がある。人間のミスの確率を減らすことが必要でもある。

これまで、おろそかにされてきた戦略の部分がある。そこも大切である。

報告2「教育、取締り、制御−道路利用者の行動管理」

人為的なミスが、安全性を減らしている。道路と車両の安全をシステムアプローチを大切である。

一般にドライバーの行動は、事故の大きな要因である。危険な行動とは事故につながる行動である。適当と思われる行動と、その枠外の境界を重要である。安全システムの原則は、車に乗っている人がシートベルトをしている。飲酒運転ではないこと、システムの設計速度ないで運転しているということを、前提としている。これらは教育と取締りで対処される。一般市民の態度に影響を与える要因は何なのか。

政策上、最も共通に対象となる分野である。シートベルト、飲酒、スピード違反である。 政策の効果に影響を与えるのは、国の文化である。前席でのシートベルトの利用率は、オランダとスウェーデンは、義務化が早かったが、オランダの利用率は伸び悩んでいる。イギリスは遅かったが、急速に普及した。イギリスとオランダでは、後席の利用率が伸び悩んでいる。それは日本でも同様である。

飲酒運転のキャンペーンも、多くの国で行われている。「飲酒運転は危険である」という概念は受け入れてもらえる。しかし「あなたの飲酒運転は危険である」というのは、受け入れてもらうのは難しい。そこでメッセージを伝えなければならない。

イギリスでは、後席のシートベルトの着用率を上げるために、前席の安全性が、後席のシートベルトをしない人によって脅かされると広報した。

これらのキャンペーンの背景には、科学的な根拠が必要である。飲酒運転に関しては、古くから研究されている。国々によって、その法的適用は違う。法制度が違い、それに対する国民の態度も異なる。ここでわかるのは飲酒運転は、いろいろなアプローチで減らすことができる、ということである。

これは、スピード違反でも当てはまる。リスクは、科学的に分析されている。スピード違反と飲酒運転のリスクは同程度であるが、国民にはあまり知られていない。道路網の整備度合いにも関連している。イギリスでは都市部のスピード違反を取り締まることで効果を上げている。事故死者数を減らすには、郊外で取り締まる方が効果的である。

スピード違反に対する国民の意識は高まらない。しかし、そのメリットを訴える必要がある。モビリティと環境で訴えることが必要である。交通経済のバランスが必要である。長期的な法規制を遵守させる手段が大切である。処罰と再教育である。特に飲酒運転で採用されている。対象をどうするのか、という問題がある。特定の層なのか、それとも、より広い範囲なのか、である。違反常習者から免許を剥奪しても、同様の率で違反を犯し続けることがわかっている。

では、より直接的な規制はどうであろうか。自動化されたシステムが自動車会社から提案されている。しかし、これらが死者数の削減に貢献するには、時間がかかる。スピードアダプティブシステムは、可能性がある。モニターには好評であった。一般市民には懸念が残っている。飲酒運転の防止システムも、スウェーデンでは効果を上げている。

二つの懸念が残る。より、ドライバーが安全な運転をしなくなることと、装置と運転者の操作が対立する場合である。これは携帯電話の問題がある。携帯電話の利用によるリスクは、飲酒運転よりも大きいという調査結果もある。

システムが想定しているものの外にある死傷者を削減することを見てきたが、それが市民一般の行動と合致するのか、という問題である。行動を管理するためには、継続的なキャンペーンが必要である。 スピード違反も、ステップバイステップで行う必要がある。

変革を実現するためのコントロールも、他の影響を及ぼす。ドライバーがリスク管理に責任を持っているということを変えるべきではない。イギリスでは、重傷者の減少率よりも、死者数の減少が少ない。これは運転のレベルが下がっていることが考えられている。また、原動機付き自転車の利用も増えていることも、懸念される。

複数の政策が、死傷者数の削減に貢献している。その貢献度合いは、欧州各国によっても違う。イギリスは車両の安全性向上に期待している。オランダでは道路の改善が期待されている。

日本に対する課題は、どのような行動が適切であるのか、ということをはっきりさせることである。これまで紹介した手段を適切に組み合わせ、効果的な対策を行う必要がある。

パネルディスカッション

内山氏 3点コメントする。スキルについての問題。不注意なのか、という単純に扱っているが、心理学では、更なるふくらみがある。単なるスキルではなく、人間の感情にも含まれている。感情の制御を教育することで、スキルの教育も可能なのではないだろうか、と指摘する。

規則を守るか、という問題が2点目。交通法規違反を否定する態度についての質問と、交通モラルの問題。意図と結果のどちらを重視するのか、という問題である。1965年から1985年、1985年にかけて、事故の結果を重視し、法律の遵守を軽視する傾向がある。どのように、法律を守ろうとする態度を涵養するべきか、という問題である。

英国では、シートベルト。飲酒、スピードを重視していると理解した。日本では、信号、スピード、飲酒を重視している。シートベルトは、法制化が最近であり、重視していない。信号無視と無免許運転については、許容度が常に低い。スピード違反に対しては、許容度が上がっている。飲酒運転は許容度は下がっている。これは、法令化の影響ではないか。シートベルトは法令化が遅かったので、データが最新しかない。2005年にも調査を行いたいが、シートベルトの許容度に関心がある。日本の重点は、シートベルトを加えるべきではないか。また、イギリスで信号に対する許容度が低いのはなぜなんか、伺いたい。

小川氏 心理学の立場から考えることが多い。ヒューマンエラーのモデルは有用であるが、このモデルは、産業の事故防止を扱ったモデルである。作業条件が限られた場面のモデルではないだろうか。これを運転に当てはめた場合は、自分で、課題を設定する行動である。ドライバーのモチベーションの問題が大きいのではないか。若い人が、仲間と同乗し、スピードに快楽を求める、という動機がある限り、事故を防ぐのは難しい。動機に対して、どのようにアプローチするのか。状況の解釈、認知のプロセスがドライバーに必要である。危険予測の教育として扱われる内容であろう。

一方で、スキルベースのエラーに対しても、そのエラーを減らす教育手法はないのだろうか。 年齢別に焦る気持ちになるのか、という分析すると、若い人が焦り、イライラする傾向がある。となれば、経験がものをいうのではないか。学習の効果があるとしたら、教育の可能性があるのではないかと感じている。ストレス対処法の問題ではないだろうか。言い訳をあらかじめ作っておいて、対処をしやすくするというのは、ストレス対処法の資源を増やすことになる。

どういう行動にターゲットを絞るのか。事故類型としてみた場合のターゲットは、追突事故と出会い頭事故が多い。高速道路の車間距離を観察した。走行車線は、安全とされる2秒を切っている。一向に改善できていない。走行車線は、更に車間距離が縮まる。車間距離を一つのターゲットとするのは考えられる。これを教材として使用したいとして車間距離を観察した。自分がどの程度の車間距離で走っているのか、を実感するためである。認識を客観的にできると思う。

ペタソン氏 日本で違反を認容するようになっているというのは、他国でも問題になっている。これには、取締りしかないと思う。教育を活用して、技能に基づくエラーを減らす、というのは、その通りだと思う。道路利用者の状況が、この種のエラーに大きな影響を与えている。飲酒や疲労が、この種のエラーに影響を与える。個人の視点からの便益を示すことができるということだった。

また、このモデルではモチベーションを理解することはできないが、それは重要ではないのではないか。戦略的な形で知識ベースの行動に結びつける必要がある。

ライナム氏 イギリスでは、違反について研究が行われてきた。いかにして、違反行為、無謀運転を法制面の整備を行った。違反行為とその結果との関連で、どの程度まで、危険と見なされるか、ということで法文を変更した。罰則も変更されたが、未解決として残っている。違反行為と事故の確率として導くのが、難しい。被害者グループが、事故の結果に注目すべきだと訴えている。

信号無視は、問題なのか、という質問があった。出会い頭の事故の質問もあった。それだけを取り上げると、イギリスでは事故と結びつくことはあまりない。それは、ロータリーの存在である。高速で通過させず、直接右折もさせない。スウェーデン、オランダ、フランスでも、ロータリーが導入されている。ロータリーの設計を他国から学ぶ状況にもなっている。イギリスには赤信号の監視カメラがある。これは、ドライバーに対して、周知されているので信号無視をしなくなっている。追突事故も、高速道路では、高い率を示す。他の道路では違う。イギリスの道路は、車間距離を詰めるような構造にはなっていない。高速道路では、取るべき車間距離を示す標識がある。車間距離が短いと警告を出すシステムもある。

個別の車間距離を、多車線道路で測定する装置もあるが、測定には技術的には難しい問題もある。こうした装置の利用は、制度化されないだろうか、リスクが高い道路では導入の検討が必要である。

西山氏 交通参加者は、幼児から高齢者まで、広範囲である。ここでフロアから、幼児と高齢者の安全を提言してもらいたい。

フロア参加者 これから運転する子供たちが、どう扱われるのか、そういう議論がなかった。具体的な話を聞きたい。

フロア参加者 札幌市は、幼児を対象に交通安全教育を行っている。児童の安全意識は高いが、大人の悪い部分を見て、態度が悪化する懸念がある。法体系と実情の乖離の対処を心配している。

ライナム氏 幼児教育を何歳からするべきか、イギリスでも議論があったが、6歳、学齢期から教育を始めるべきという認識が定着した。6歳からは早すぎるという意見もある。イギリスでは、安全な横断場所を探すという問題もある。 これは児童には難しい課題となっている。学校やボランティアが、実地訓練を行っている。成長につれても、維持されるか、という問題は、成長するにつれ、責任感も生まれ維持される。年上の子供たちが、より小さい子供たちのお手本になり、勉強する、というプログラムもある。思春期を迎えると、自分の思い通りに行動するようになる。12歳前後の児童が最も多い。その要因を解明することが必要である。仲間たちと行動するので、不注意になりやすい。授業内容も変更しなければならないという意見もある。英国では、思春期の子供たちの行動が、交通安全に限らず問題と認識されるようになっている。大人たちの行動が、見本になっていない。子供たちが成長しても、行動の責任を持つような教育が必要である。

ペタソン氏 教育は専門ではないが、意見を持っている。スウェーデンでは十分には行われていない。特に、この10年前後はそうである。教育手法を開発するだけでなく、その評価法を開発することである。教育には投資が必要である。その効果がわからないと導入は進まない。人間の行動は教育だけで変化させるわけではないが、運転者の教育を一般の学校に導入できないか、という議論がある。コストがかかることであるが。

西山氏 教育が大切である。そして制御、規制が大きな要因になっている。車両と運転者、道路環境という3つの要素もある。三角形にはバランスが必要である。三角形をいくつか、集めると、その安定性は高くなる。三角錐の中は空洞であるが、そのなかには、ヒューマニズムが入るべきだろう。交通安全対策はバランスが取れている必要がある。

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